以前の記事で完璧主義が死をもたらすということを書きましたが、完璧主義者ほど自分に厳しすぎるのでセルフコンパッションが重要になってきます。
簡単に言うと、セルフコンパッションは自分に優しくするということです。
クリスティン・ネフの「セルフコンパッション」という本は人間に必要なのは自信というよりセルフコンパッションであるということを検証しています。
セルフコンパッションに必要な3つの要素
セルフコンパッションには決まった定義はないのですが、ネフ博士は、
- 自分へのやさしさ:他人を思いやるときのように、自分にもやさしくしてあげること
- 一般的な人間性:人間は周囲との関わりのなかで生きているという事実への自覚
- マインドフルネス:思考にとらわれずに目の前の現実に意識を向けられること
の3つを重要視しています。
これらの要素が多い人ほどうつ状態におちいらず、人生への満足度も高いというデータがあって裏付けられています。
あくまで自己批判をせずに自分の幸せを願うのがポイントなので、
- ナルシシズム
- 自己満足
- 自己憐憫
- 自尊心
といった状態とは別物になっています。
いっぽうでネフ博士は、今の「自信を持とう!」という動きには否定的です。
ポジティブ思考とうつの関連を調査した論文もあって、自信を持とうというポジティブ思考がうつになりやすいことが分かっています。(ソース)
「WILLPOWER 意志力の科学」のロイ・バウマイスターによる2003年論文(ソース)によれば、
”自信だけが高くてもメリットは少ない。
学校の成績や仕事のパフォーマンス、リーダーシップのスキル、喫煙や飲酒の習慣、違法ドラッグの使用、乱れた性行為など、あらゆる要素に関して自信の高さは無意味である。
どころか、自信の高さは健康的な生活に悪影響をおよぼす可能性のほうが高い。”
近年の科学的研究によれば、
” セルフコンパッションにはメリットが多いわりに副作用は少ない。
ただし、ここで大事なのは、セルフコンパッションと自尊心が相反するものではないところである。
あなたが本当に自分を思いやることができれば、自然と自尊心も高くなっていく。
そしてセルフコンパッションが高まれば不安やうつの症状は減り、幸福感や楽観性が高くなる。”
ということです。
セルフコンパッションの気持ちが育つと、問題が起きても「自分はダメ人間だ!」みたいな自己批判が起きにくくなり、結果としてメンタルに良い影響が出やすいわけですね。
セルフコンパッションのトレーニング法
じゃあ、セルフコンパッションはどう鍛えればいいの?って話ですが、まずは自分に優しくすることを心がけるのが基本です。
”自己批判に立ち向かう最良の方法は、思いやりを持って批判の内容を理解してやり、もっと優しい反応をしてあげることである。
自分のなかの批判者を、もっとも優しく親身にポジティブに扱ってやればいい。”
ということで、認知行動療法に近い感じです。
とはいっても、いきなり自分に対して優しくと言われてもどうやればいいのか難しいので、ネフ博士がおすすめしているのが、自分のなかに架空の優しいキャラを作る戦略です。
” わたしが行った実験では、まず参加者に対して「どんな悪いことも起きない安全な場所」をイメージしてもらった。
そのうえで、優しくて慈悲にあふれた理想的な人物を、頭のなかに作り出すように指示した。
このトレーニングの結果、うつ症状や自己批判、劣等感、恥の感覚などが大幅に減ることが確認された。”
あらかじめ理想的な人物を作っといて、自己批判がわき上がってきたら、そのキャラに対応してもらうわけです。
ネフ博士が実践した例では、ダイエット中にお菓子を食べたときは、架空のお婆さんキャラにこう言ってもらったらしい。
” あなたは悲しい気分をまぎらわせようとして、クッキーをたくさん食べたのね。
でも、もっと気分が悪くなったのでしょう。悲しい気分を幸せに変えたいなら、これから散歩にでも出かけるのはどうかな?”
ポイントとしては、
- 嫌な気分を確認してやる
- ネガティブな思考は否定しない
- 非論理的な自己批判には論理的に反論(「私はいつもダメだ!」→「正しいときもあるでしょう?」)
- よりポジティブな代替案を出す
みたいな感じでしょうか。
とにかく自分を批判する気持ちがわき上がってきたら、歴史上の偉人でもアニメの登場人物でもいいので、優しくて寛大なキャラに対応してもらう作業をくり返していくのがいいようです。
ただ、自己批判が激しい人のなかには、そもそも自分が自分を責めている事実に気づけないケースもあるので、その場合は瞑想などで思考を客観視する練習からはじめるのがいいかもしれません。
時間はかかりますが、なにしろ自分を気にかけてやれるのは自分だけなので、セルフコンパッションをきたえておくと良いと思います。