「野菜は生で食べるべきか?それとも料理して食べるべきか?」という問題は前からあって、「生食のほうが栄養価が高い」って主張がある一方で、「調理したほうが逆に栄養が吸収される」みたいな主張もあります。
2022年に「生の野菜か調理した野菜かが心臓病にどう影響を与えるのか」問題を調べたデータ(ソース)が発表されていて、参考になるかと思います。
これは英国バイオバンクの健康データを使ったもので、特に心疾患がない男女39万9586人を対象にしています。参加者の平均年齢は約56歳、約55%が女性で、
- 2006年から2010年にかけて、食事の内容、ライフスタイル、健康状態などを調べ、さらに身体計測と血液、尿、唾液の採取も行う
- 食事に関するアンケートをもとに、それぞれが「1日に平均でどれぐらいのサラダなどの生野菜を食べるか?」や「1日に平均でどれぐらい調理済みの野菜を食べるか?」を判断する
- 野菜の摂取量を4段階に分類し、生野菜と調理済み野菜それぞれの摂取量をベースに、みんなの健康レベルと比較する
という感じの研究です。
ここでいう「健康レベル」は、おもに心臓や血管の病気による入院または死亡をベースに判断していて、そのうえで数字に影響しそうな要素をコントロールしてあります。
平均の追跡期間は約12年で、分析したら以下のように結果になっています。
いずれも、野菜をたくさん食べる人と、ほとんど食べない人を比べた場合の数値になっております。
- 心疾患の発症率
- 生野菜をたくさん食べた場合の発症リスクの低下率=12〜21%
- 調理済み野菜をたくさん食べた場合の発症リスクの低率=0〜23%
- 心疾患による死亡率
- 生野菜をたくさん食べた場合の発症リスクの低下率=15〜26%
- 調理済み野菜をたくさん食べた場合の発症リスクの低率=4〜33%
なんだか数字にだいぶ幅がありますけど、これは「どの要素でデータを調整するか?」によって、結果が大きく変わってくるのが原因です。
基本的には、年齢とか居住地域みたいに基本的な要素だけで調整したほうが数字が大きく出て、さらに運動量、タバコ、加工食品の量などをいろいろと加えると数字が低めに出る感じです。
というのも、野菜の総摂取量が多い人は、少ない人に比べて高学歴で裕福な地域に住んでおり、喫煙者が少なく、平均BMIが低い傾向があるので、いろんな要素で調整しない場合はどうしても数字が大きくなりやすい傾向があるからです。
つまり、上記の結果をまとめると、
- 生野菜と調理済み野菜は、どちらも食べるほど心疾患の発症および死亡のリスクの低下と関連していた
- 全体的に言えば、生野菜は調理済み野菜よりも予防効果が高かった。が、観察された相関の多くは交絡因子に起因する(すべてではない)
といった感じです。
出てきた数値を見る限り生野菜が優勢っぽいのですが、それは交絡因子で説明できるってことです。
つまり、野菜をたくさん食べる人は金持ちで健康的なライフスタイルを送っており、そっちの原因のほうが病気の発症率や死亡リスクへの関係は大きい。
ということで、「生野菜と調理済み野菜の効果が異なるのは、野菜の食べ方よりも他の要素の影響が大きいのでは?」というような印象があります。
参考までに過去の類似研究もあげておきます。
- 2017年の観察研究(ソース)では、17か国から集めた13万5335人のデータを評価したところ、1日2皿以上の生野菜を摂取する人は、1ヶ月に1皿未満よりも死亡リスクが54%低く、交絡因子を調整すると31%に減ると報告されていいます。一方で、調理した野菜の摂取量が1日2皿以上の場合は、1ヶ月に1皿未満よりも死亡リスクが28%減少したが、交絡因子を調整した後は9%に減少した
- オーストラリアの15万969人のデータを評価した2016年の観察研究(ソース)では、生野菜をもっとも多く摂取する人は、さほど摂取しない人よりも全死因死亡のリスクが35%低いが、この効果は交絡因子で調整すると有意ではなくなった。調理した野菜をもっとも多く摂取する人は、さほど摂取しない人よりも全死因死亡リスクが12%低く、交絡因子で調整すると13%に増加した。
という感じになっていて、これらの話を合わせて考えてみると、やはり生野菜か調理野菜かはそれほど考える必要はなく、多くの野菜を摂取するぐらいに考えておくのがいいかもしれません。