「心の傷は時間がたてば癒える」とよく言われていますね。
これは多くの研究でも確認されていて、どんなに辛いことがあっても、大抵の人は時間とともに回復していくということです。
近ごろは「レジリエンス」(折れない心)とも呼ばれています。
が、2016年に出た論文(ソース)では、「時間が経ってもメンタルが回復しない人もいる」という結果が出ています。
これはアリゾナ州立大の研究で、5万人分の社会調査データを統計処理したものです。
研究者によれば、これまでのレジリエンス研究は統計モデルに不備があったということです。
具体的にいうと、従来の研究ではデータを以下のよう分けていました。
- レジリエンスが高いグループ:心の回復力が高く、みな同じようなペースで心の傷が治っていく
- レジリエンスが低いグループ:心の回復力が低く、みな同じようなペースで心の傷の治りが遅い
しかし、当然ながらレジリエンスが高いグループのなかでも、心の傷が癒えるペースは大幅に違うわけです。
Aさんは離婚のストレスからの回復が早いけど、仕事をクビになった場合は持ち直すのに2年かかったりなどです。
また、従来のレジリエンス研究には、
たいていの人は、人生の満足度が4〜8の間で変動する(10点満点)
という前提を統計モデルに組み込んでいました。
ところが実際の傾向を見てみると、
- レジリエンスが高いグループ=人生の満足度が6〜8ポイントの間でずっと安定している
- レジリエンスが低いグループ=人生の満足度が2〜10ポイントの間で激しく移り変わる
という違いがあります。
この差が、従来の研究に大きな影響をあたえていたのではないかということです。
以上の要素を考慮して計算し直すと、
従来の研究
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- 配偶者の死に直面しても、75%の人は時間とともに立ち直れる
- 離婚を経験しても、85%の人は時間とともに立ち直れる
- 仕事をくびになっても、81%の人は時間とともに立ち直れる
新しい結果
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- 配偶者の死に直面した場合、時間で心の傷が癒えるのは27%だけ
- 離婚を経験した場合、時間で心の傷が癒えるのは36%だけ
- 仕事をくびになった場合、時間で心の傷が癒えるのは48%だけ
という結果になりました。
同じデータセットを使ってるのに、なかり数字に違いが出ています。前提が変わるだけで大きく変化しましたね。
研究者によれば、
”「心の傷は時間がたてば癒える」という考え方は危険だ。本当は外からの助けが必要かもしれない人を、見過ごす可能性を増やしてしまう。”
” 悲劇的な体験をしたあと、その人にとって本当に必要な対処法が何かを、もっとよく考えるべきだろう。”
とのことです。
ここから学べることは、
- 自分にはレジリエンスがないと落ち込まなくてもいい(ないほうが普通だから)
- 辛い体験をしたら時間が過ぎるのを待つのではなく、積極的な対処が必要かもしれない
という感じです。
もちろんとても長い目で見れば「時間が解決する」というのは間違いではないですが、放置しておくだけだとメンタルの悪化が無駄に長引くということですね。